一輪の花と二つの三日月

tobaccojuiceのニューアルバム『一輪の花と二つの三日月』の発売に合わせて
現在配布中のフライヤーの裏にtobaccojuiceについての文章を書かせて頂きました。
どこかで読めたらなと思い、メンバーさんにも許可をいただいたので、
ninohiraのサイトで掲載させてもらいます。

tobaccojuiceのことを知らない人にもわかるように、ということだったので
アルバムについての文章ではないのですが、読んでもらえたら嬉しいです。

『一輪の花と二つの三日月』は12月17日発売です。
深く濃い、永く聴き続けられる作品になっていますので、是非聴いて下さいね。
大阪・東京で行われるリリースパーティーの詳細はこちら

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ボーカル・松本敏将、ギター・おおくぼひでたか、ベース・岡田圭市、ドラム・脇山広介で成る4人組ロックバンドtobaccojuice。1999年に松本とおおくぼが出会いバンドを結成して以来、2つのメジャーレーベルからのリリースや自主レーベルの設立&リリース、2011年にはメンバーそれぞれの活動方針や音楽に対する方向性の違いによる活動休止と、それに伴う岡田の脱退など、 文字通りの紆余曲折を経験してきた4人。
休止中、松本は弾き語りやくふきでの活動、脇山はLiquidやBIGNOUNのメンバーとして、更にはウカスカジー、宇宙まお、キムウリョンなどのサポートとして音楽活動を続け、個々を高めていた。 一方のおおくぼはtobaccojuiceのジャケットでも披露していた絵の才能を開花させ、ぬいぐるみ・絵本作者として、本を出版するまでの成果を出していた。
そんな順調に見えた個々の活動の最中、岡田の復帰とtobaccojuiceの復活がアナウンスされ、2013年のSUMMER SONICで彼らは活動を再開した。

ロック、ブルース、カントリー、レゲエ、フォーク等、様々な音楽をルーツに持つ彼らの生み出す音楽は、リスナーだけでなく、多くのミュージシャンに愛されてきた。その証拠に佐藤タイジや柏原譲にプロデュースしてもらったり、キタダマキやエマーソン北村にライブサポートをしてもらったりと名立たる音楽家と制作を共にし、現在もtobaccojuiceのファンを名乗るミュージシャンは多い。

tobaccojuiceが作り出す楽曲と松本が紡ぎ出す歌詞は、いつも物事の表と裏を映し出す。幻と現実。絶望と希望。憎しみと優しさ。光と闇。闘うことと愛すること。嘘と本当。生と死。怒りと許し。あらゆるものに存在しているその表裏は、気づくことさえ出来れば簡単に翻る。だが私達はどちらかの場所や感情に居る時、そのことを忘れてしまう。そして悲しんだり落ち込んだり嘆いたり、答えを見失ってしまう。でも彼らの音楽はそれらのものがいつも同時に存在し、どちらに転がることも簡単なことだと気づかせてくれる。tobaccojuiceの音楽は常に福音であり警鐘だ。

その音楽が4人の身体を通して鳴る時、そこには強い説得力と音楽の魔法としか言いようのない空間が生まれる。かつて松本はライブハウスを人生の大きな交差点だと言った。100人いたら自分対100の交差点があり、その交差点もまた音楽だと。ライブという場ではそこにいる人や場所や色んな要素が全て混じり合い音楽になってしまうあの不思議な力を、tobaccojuiceは奇跡みたいな大げさなものじゃなく、ふわっと軽やかに見せてくれる。何故"俺らのミュージック それはマジック"と歌い、"魂"や"ブルース"という言葉を繰り返し歌うのか、その意味を彼らはライブで体現している。

そして、tobaccojuiceの音楽において、ずっと変わらないことがある。それは自分達の心に真正直だということ。どんな作品を作っても、どんな体制でライブをしようと、どんな状況に置かれても、そこだけはぶれることがなかった。音楽を聴けば心の動きがわかるくらい、良くも悪くも馬鹿正直にやってきた。もしかしたらステージに立つ人間は装うことが出来た方がよいのかもしれないし、嘘をつくことが上手な方がよいのかもしれない。でも自分の心をそのまま音楽にすることが、どれだけ難しいか、そのことをミュージシャンは知っているからこそ、彼らのことを評価したり憧れたりするのだろう。さらに音楽はそれを鳴らしている人だけでなく、聴いているこちら側の心も映し出すのだと、tobaccojuiceの音楽は教えてくれた。

文頭で書いたように紆余曲折の音楽人生を歩み、音楽をやっていくことの苦しさや辛さも十二分に知っているだろう彼らが、どうしてまたバンドを始め、新しい作品を作ったのか。
その答えになるであろう4年半振りのアルバム『一輪の花と二つの三日月』を数曲聴かせてもらった。『喜びがやって来る』で出会った頃の彼らの印象と近い、ひどくかっこいい音楽だった。と同時に、じわじわと私達の足元から背後から、静かに訪れようとしている悪の存在を感じる音だった。休止前最後の作品『どこまでも行こう』でバンド史上最高にハッピーな作品を作った彼らが、今辿り着いた音。それは円熟した4人の今とtobaccojuiceのルーツと本質、そしてこの世界の不穏なムードを映し出した、重要な一枚になるだろう。

きっと彼らがこのバンドでしか感じ得ないものがあるように、私達にもtobaccojuiceの音楽でしか知り得ないものがある。私達はこうしてまた、自分の心を聴くチャンスに巡り会えた。       
                                                                                                              
(文・小山裕美)